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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)792号 判決

上告人

ゼネラル自動車株式会社

代理人

満園勝美

満園武尚

被上告人

水田松蔵

代理人

太田実

主文

原判決の上告人敗訴部分のうち、被上告人の請求中「金二〇万一二〇〇円およびこれに対する昭和四三年一月一三日から完済にいたるまで年六分の割合による金員」を超える金員の支払請求に関する部分を破棄する。

右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

その余の本件上告を棄却する。

前項の上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人満園勝美、同満園武尚の上告理由第一点について。

原審が、所論のプラスター補修工事費用相当額の損害額を、被上告人主張の金額を超えて五万七二〇〇円と認め、上告人に対し右金員の支払を命ずるのを相当としたのであつても、本件においては、個々の工事費用相当額の損害金の支払請求がそれぞれ別個の訴訟物となるものではなく、また、原審は、被上告人の請求総額を超える金員の支払を命ずるのを相当としたわけでもないから、原審が上告人に対し前記金員の支払を命ずるのを相当と判示したことをもつて、被上告人の請求と別個の訴訟物につき判決をしたものということはできない。したがつて、原判決に所論の民訴法一八六条違反は存しない。

しかしながら、論旨は、甲一号証その他原判決挙示の証拠によつて前記工事費用が五万七二〇〇円であるとした原審の事実認定(原判決添付別表3左官工事の「プラスター補修」とある部分参照)が違法である旨の主張を含むものと解しえられるところ、本件記録によれば、右挙示の証拠中には右事実を認めうべきものは存しないのであるから、右事実認定は経験則に違反するものというべきである。右違法が被上告人の請求中「金五万七二〇〇円およびこれに対する昭和四三年一月一三日から完済にいたるまで年六分の割合による金員」の支払請求部分を認容すべきものとし、右請求に関し控訴を棄却した原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は右の限度において理由があり、原判決中右請求に関する部分は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。

同第二点、第四点ないし第七点について。

原判決の上告人敗訴部分のうち、前記破棄部分を除くその余の部分についてのみ、論旨の当否を審按する。所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし首肯することができ、右認定判断の過程に所論の違法を認めることはできない。また、所論の工事費用の計数上の根拠等の詳細を判文上いちいち判示することは必要でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、または独自の見解に基づき原判決を攻撃するものであつて、採用することができない。

同第三点について。

およそ、契約上の債務の不履行を原因とする損害賠償債務は、契約上の債務がその態様を変じたにすぎないものであるから、当該契約が商行為たる性格を有するのであれば、右損害賠償債務、その性格を同じくし、商法五一四条にいう「商行為ニ因リテ生ジタル債務」というに妨げないものである(大審院明治四〇年(オ)第四〇五号同四一年一月二一日判決・民録一四輯一三頁、同昭和八年(オ)第一〇七三号同年一〇月二〇日判決・法学三巻五五五頁参照)。

そして、前同様に、論旨を、原判決の上告人敗訴部分のうち、前記破棄部分を除くその余の部分についてのみ、審按するに、原審の確定した事実によれば、所論の損害賠償は、株式会社たる上告人を借主とする賃貸借契約上の債務の不履行を原因とするというのであるのであるから、右賃貸借は商法四条、五二条、五〇三条の規定により少なくとも附属的商行為たる性格を有するのであり、したがつて、右損害賠償債務は商行為によつて生じた債務というべきである。原判決が右と同旨の見解に基づくものであることは、原判文上明らかであつて、原判決に所論の違法を認めることはできず、論旨は採用しえない。

以上説示したとおり、本件上告は、原判決の上告人敗訴部分のうち、論旨第一点について判示した金員の支払請求に関する部分、すなわち、被上告人の請求中「金二〇万一二〇〇円およびこれに対する昭和四三年一月一三日から完済にいたるまで年六分の割合による金員」を超える金員の支払請求に関する部分については理由があるから、右部分を破棄し、右請求の当否につき更に審理を尽くさせるため、右部分を東京高等裁判所に差し戻すこととするが、その余の部分については、理由がないから、その余の本件上告を棄却することとする。

よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(下田武三 岩田誠 大隅健一郎 藤林益三 岸盛一)

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